2つの果実:「奇跡のリンゴ」と「抜本改革」
今回は、東京海上日動火災保険株式会社の常務取締役でCIOの横塚裕志氏より、セレントのブログに寄稿いただきました。
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[caption id="attachment_471" align="aligncenter" width="257" caption="Hiroshi Yokotsuka"][/caption]本日は、日本で「奇跡のリンゴ」と呼ばれる物語と、東京海上日動の「抜本改革」の話をしたい。
アダムとイブ、万有引力、ウイリアム・テル、iPodなど、これまでリンゴは人類にさまざまな試練、発見、感動、楽しみをもたらしてきた。今また一つ、日本の北のはずれのほうで、リンゴの木と一人の老人が新たな奇跡を起こした。
今日のリンゴは、ニュートンが見たそれとは全く別物である。数世代にわたる品種改良と優れた病害、害虫対策により、立派で、甘く、大きな実をつけるようになった。特に日本で作られている高級なリンゴは、皆さんが欧米のホテルのロビーで見かけるものの倍近い大きさがある。
その代償として、現在のリンゴは大量の農薬、肥料、丁寧な除草なしでは、1年も経たないうちに枯れてしまうほど脆弱なものになってしまった。リンゴを無農薬で育てるのは不可能であるというのが農家の常識であった。少なくとも木村氏が挑戦するまでは。
木村氏は現在60歳。20年前にリンゴの無農薬栽培という、当時の常識からは無謀とも言える試みを開始した。
その困難は、木村氏の想像を遙かに超えていた。手作業で害虫を取り除き、消毒薬の代わりに酢やワサビの溶液を撒いたが、葉は害虫に食い荒らされた。
6年間、考えられることを全て試してきたが、リンゴの木は実を結ぶどころか花を咲かせることもなく、衰弱し、枯れていった。
万策尽き、精神的にも経済的にも消耗しつくし、ついに自殺を決意して山中深く分け入った木村氏が見たものは、農薬も肥料も与えないのに力強く育っている木々の姿だった。
リンゴを作っているのは人間ではなくリンゴの木である。人間の都合ではなく、リンゴの木が本当に気持ちよく実を作れる環境が必要だ。この当たり前のことに気づくのに6年かかった。人間が一人では生きていけないように、植物もそれだけでは生きていけない。森の木々は、害虫も益虫も(これは人間の定義である)、雑草も雑菌も(これも人間の定義である)、ヘビも蛙もミミズも一緒になって、絶妙のバランスを保って生きている。
木村氏は自分が何をしにここに来たかもすっかり忘れて畑に走って帰り、それからはどうしたらリンゴが気持ちよく果実を作ってくれるか、それだけを考えて畑を作り替えた。その畑は様々な草が生え、多くの虫やヘビやカエルや動物が棲む、雑然とした、しかしリンゴの木にとっても人間にとっても大変心地よい環境になった。そこで創られるリンゴは言葉では言い表せないほど滋味に溢れ、現在では入手が非常に困難である。そのリンゴを使った料理を出すレストランは、1年先まで予約が埋まっている。
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東京海上日動は、その保険のほぼ100%を代理店が売っている。しかし、お客様と接し、保険を売っているのは代理店であるというごく当たり前のことに気がついたのは、つい最近のことである。それまでは代理店は、会社の都合で作られた複雑な保険商品を、会社が考えた煩雑なプロセスで、社員の目線で作られた使いにくいシステムを操作しながらお客様に販売していた。
2004年にスタートした「抜本改革」は、代理店がいかに気持ちよく仕事ができるかを徹底的に追求したプロジェクトである。会社の都合で複雑化した保険商品・特約を半分にそぎ落とし、プロセスを根本から見直し、代理店の目線でシステムを全面的に作り直した。
現在では、商品、業務プロセス、システム、社員のサポート、そして代理店自身の自律的努力が絶妙に調和し、代理店にとって心地のよいビジネス環境が生まれつつある。それは、言うまでもなくお客様にとっても心地よいカスタマー・エクスペリエンスを提供する原動力になっている。
東京海上日動の「抜本改革」もまた、木村氏のリンゴに優るとも劣らない果実を実らせつつある。
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