ディスラプションそしてディスラプター(その1)
ソフトバンク株式会社とソフトバンク コマース&サービス株式会社は、2015年7月30~31日の2日間にわたってグループ最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2015」を開催、2日間で延べ約2万人の聴講者数は過去最高を記録と発表した。今年で4回目を迎えたこのイベントでは、ソフトバンクグループの経営陣およびゲストによる基調講演のほか、2日間合計で73の特別講演とセッションが展開された。
本稿では、日本のモバイルキャリア企業が、既成の携帯電話事業を破壊し、モバイルインターネット時代のコアテクノロジー事業を創造する姿を描出する。そこには、創造的破壊に必要な、幾つかの示唆が見出せる。金融サービス産業は、こうしたモバイルキャリアの挑戦に、大いに触発されるはずだ。
第1回では、経営者のイニシアチブについて、第2回では、最新テクノロジーの適用による既成概念の破壊について、第3回では、破壊的なテクノロジーがもたらすUX(ユーザー体験)革新について言及する。
1. 情報革命で、今日、次の世界へ (孫 正義氏講演から)
孫氏は、革命の発生源として、3つの技術領域を挙げた。IoT、AI、そしてスマートロボットである。
- IoT: IoTは全ての産業の中心となっている。人間は一人では存在しない。コミュニケーションして存在している。人と人、人とモノ、モノとモノが繋がる社会が到来する。スマホが人のライフスタイルを変えたように、IoTは産業革命をもたらす。
- AI: 間もなく到来する2018年は、脳細胞のシナップスとトランジスタのクロスオーバータイミング。人間の脳細胞は、300億個と変わらないが、トランジスタの数は増え続け、シンギュラリティ(技術特異点)は必ず到来する。人口知能は、人間が苦手なことに対応し、人間が対峙すべきテーマが変わる。ここにも、革命の起点がある。
- スマートロボット: 機械的な作業よりも知恵や知識を強化した、人工知能を最大限活かしたスマートロボットを提供したい。2040年には、動くもの全てがスマート(人工知能を搭載した)ロボット化し、その数は全人口を超える。人工知能が人間を超える時代が避けられないならば、ハートが綺麗で優しく人間を思いやるロボットと一緒に暮らしたい。人間の感情生成をエミュレートして自ら考え動くロボットを作りたい。
IoTが、自社のコアであるモバイルインターネット領域、AIは、IBM Watsonとの協業、そしてスマートロボットは、Pepper for Bizである。そして、経営者のコミットは、このコア3領域でのイニシアチブとその最新テクノロジーとビジネスモデルのシナジーによる成長戦略の実現であった。
同時に発表された、革新的なソリューションや技術を世界から幅広く募集し、共同で商用化を検討・実現する「ソフトバンクイノベーションプログラム」の初年度テーマは、「スマートホーム(家電製品や設備機器などをインターネットと接続して制御する住居)」「コネクテッド・ビークル(インターネットと常時接続している自動車)」「デジタルマーケティング」「ヘルスケア」の4領域であった。
金融サービスは含まれないが、住居、クルマ、マーケティング、医療のいずれもが、金融サービスを利用する生活者のライフスタイルそのものを変貌させることで、また一層、新たな金融サービス産業への期待は高揚する。逆に言えば、既存の金融サービス事業者にとって、最新技術(IoT、AI、スマートロボット)に慣れ親しんだデジタル消費者、デジタル企業に応える金融サービスとは何か?自らのデジタル技術、IoT、AI、スマートロボットへの対応のみならず、こうしたデジタルコンシューマー動向の理解なくして、イニシアチブはとれない。
今日、ディスラプションは金融機関、金融業界の外で起き、ディスラプターは金融サービス以上にテクノロジーを熟知した企業家である。