今春のカンファレンスを振り返る(その2)
本稿では、今春のアジア3都市での6つのカンファレンスを振り返ります。銀行、保険、証券、ウェルスマネージメントの各業界の議論に共通したキーワードは、フィンテック、デジタル、そしてモダナイゼーションでした。
Legacy Modernization Seminar (4月7日:東京)
http://www.celent.com/news-and-events/events/legacy-modernization-seminar
グローバルなITサービスベンダーの主催するコミュニティミーティングで、「レガシーモダナイゼーション」のプレゼンテーションをしました。
昨年セレントが実施したサーベイ結果は、日本の保険業界におけるレガシーシステムの現代化について、以下の示唆をもたらしました。
- 現代化の検討は本格化、既に実施ステージに:置換戦略は、新システムへの置換がバージョンアップやラッピングを凌ぎ、置換理由は、コスト、ITスキルや能力との合致、リスク許容度、が主流である。
- 置換プロジェクトの進捗は評価から実施段階へ入るも、新たな解決策(SaaS、BPO)の検討は十分とは言えない。
- 最大の課題は自社に最適なプログラムの選定にある。
- ビジネスケースの検討は不十分:ビジネスケースはプロジェクトの進捗管理ツールに止まり、ライブドキュメントとして機能していない。
- 現代化の進展による、ビジネス部門、IT部門の役割変化は、未だ責任分担を変化させるには至っていない。
この現状認識に基づき、カンファレンスでは、以下を議論しました。
- レガシーモダナイゼーションのフレームワーク
- 組織の優先課題と自社のリスク許容度の掌握
- スコープ定義
そしてレガシーの再生産をしないモダナイゼーションのKFSとして、以下を提唱しました。
- 自動化とその複雑系への適用
- コアスタンダードの確立と、ローカルバリエーションの許容
- ソーシングモデルの見直し
ここでもまた、「フィンテック」「デジタル」が共通の話題でしたが、IT部門の最大の課題は、やはり「レガシーモダナイゼーション」にあります。それはITシステムの更新や新技術の導入だけでなく、IT部門の体制やイニシアチブの在り方にも大きく依存します。カンファレンス参加者の問題意識は、「データ移行」「プログラムコンバージョン」「コンフィグレーション」から「クローズド・ブック」のBPOまで、実に多様なテーマに及びました。
http://tekmonks.com/beta/beta/brochure/FI-Consulting.html
Tokyo Financial Information & Technology Summit (4月12日:東京)
http://www.celent.com/news-and-events/events/tokyo-financial-information-technology-summit
キャピタルマーケットのトピックスも変化しています。
例年同様、東京金融情報&技術サミットのパネル運営をサポートしました。今年のカンファレンスでは、ウェルスマネージメント、フィンテックを新たなトピックスとして加え、「信託ビジネス」と「ブロックチェーン」のパネルをモデレートしました。
「信託ビジネス」パネルでは、以下のトピックスで議論しました。
変貌する個人金融市場と資産運用ビジネスの現状認識について:
- 「貯蓄から投資へ」の潮目の変化(NISA、投信、ラップ口座)
- ゼロ金利の影響
- ターゲットとするセグメント
個人向け資産運用ビジネスへの取り組みについて:
- 新チャネルの状況(対面チャネル、非対面チャネル、ハイブリッド)
- プロセスの改革の度合(分析と自動化の活用度合)
- オペレーション革新の状況(商品・サービス、IT、組織・体制の革新)
資産運用ビジネスにおけるイノベーションのドライバーと挑戦:
- テクノロジー活用(チャネル、分析・自動化、商品・サービス)
- データ活用(投資サポート情報、投資商品データ、投信データ)
- FinTech活用(組織・体制、新市場とコミュニティの拡大)
日本のリテール証券・信託マーケットにおいても、ウェルスマネージメントビジネスとそこでのテクノロジー活用が重要テーマとなっています。
「ブロックチェーン」パネルでは、「資本市場」を中心とした「ブロックチェーン」の可能性、POCへの期待を議論しました。論点は、以下の3点でした。
- 取引の透明性、コスト削減への効果期待と実現方策
- 金融サービス事業適用の条件、POCに期待する成果
- 期待される、ビジネスケース
ブロックチェーンを巡る議論は、「探索」の段階から「実証」の段階に入ったと感じました。また、カンファレンスの議論を通じて、以下の示唆を見出しました。
- この技術は、多くの市場参加者が共有すべきもの:プライベートもしくは、小規模なコンソーシアムでこの技術を適用しても、そのメリット享受は難しい。
- この技術は、グローバルに実装すべきもの:グローバルな制度変更を伴う、標準化のイニシアチブのなかでの設計と実装が本来の姿である。ビジネスケースは、国際送金、トレードファイナス、マイクロペイメントなど想定されるが、ビットコイン(の信任が増し)若しくは、新法定通貨が定まれば、金融取引の大半はそれでよく、後は、非金融情報をタグ付するだけで、その多くはXMLの範囲で解決する。
- この技術は、アプリケーションではなく、プラットフォームの技術:従って、①基礎研究:新プラットプラットフォームの構築と、②応用研究:その上でのアプリケーションの構築作法、とを峻別し、POCの多くは、R&Dとして①を主に、②はサンプル・ユースケース程度であり、制度設計は皆無。多くのベンダー(や金融機関)は、旧態依然として、新標準が定まった後のAP構築方法論及びAP構築から利益を出す構造である。
そこでの課題は、以下の3点に集約出来ます。
- 透明性:技術の特性として、秘匿性の高い情報の管理には向かない。大半の金融取引は秘匿性が伴い、法改正も必要。
- 制度設計:大規模金融基盤適用には、制度設計、制度改定が不可避で、個別金融機関にはその動機がない。
- 技術者の人口:メインフレームからC/S、Web、モバイル、AI&IoTへの変遷と全く同様に、広範な普及には開発者の人口が必要。
http://www.financialinformationsummit.com/tokyo/jp/static/programme
17th Asia Conference on Bancassurance and Alternative Distribution Channels (5月10日:ジャカルタ)
今春2回目のジャカルタでは、このバンカシュランスのカンファレンスに参加し、保険業界におけるデジタル化をセレントの「デジタルフレームワーク」を用いて提唱しました。加えて、InsurTechの動向を、ソーシャルメディアのデータ分析、保険会社以外のデータ収集とその活用、IoTを活用した新たなデータソースの拡充、構造化データ以外の分析ツールの活用について紹介しました。また、銀行と保険会社のレガシーモダナイゼーションについても言及し、自動化と事務処理のSTP化の重要性を述べました。バンカシュランスの文脈においても、銀行、保険会社に跨る事務処理をシンプルにすることが鍵で、プロセスのデジタル化はすなわちコアシステムの現代化を誘導することを提言しました。
カンファレンス・チェアの役割を通じて、全プレゼンテーションを紹介し、質疑応答をモデレートしました。登壇者の顔ぶれは、現地の金融当局、保険業界団体、東南アジアで活躍するグローバル銀行と保険会社、再保険会社の現地法人、そして当地でのデジタルバンキングに商機を見出すテクノロジーベンダーとフィンテック・スタートアップ企業。各社の発表に共通するコンセプトは、デジタルエクスペリエンスが変える銀行と保険会社、そして保険契約者の関係でした。
社会インフラの制約条件は、シンプルな顧客関係を要求します。金融とITのリテラシーが未成熟な地域では、顧客の文脈での推奨や支援が必要とされます。それらを満たすプラットフォームとして、モバイルを中心とした顧客接点が取り組みの中心でした。Financial Inclusion(金融包摂)は、金融当局の強力なバックアップもあり、銀行、保険、そしてテクノロジーの業界にとって、大きな活躍の舞台とみなされます。今回も、アジア新興市場のダイナミズムを大いに実感しました。