日本の金融機関におけるイノベーション②:パネルディスカッションから
セレントは、去る6月5日、「イノベーション&インサイト・デー 東京 2014」を開催した。「デジタル金融サービスと新たなイノベーションの取り組み」と題した本イベントでは、セレントによるイノベーションサーベイの報告に引き続き、パネルディスカッションを実施した。
本稿は、本イベント報告の第2回である。
当日は、日本の金融業界を代表する5人のパネリストにご登壇頂いた。競合とディスクレーマーの強い圧力の中でのご登壇に、セレントは深く感謝申し上げたい。そして何より、パネリストのイノベーションへの情熱と経験、示唆に富む発言内容には、日本の金融業界の自信が感じられた。以下、発言者は特定せず、日本のイノベーターの「心意気」をまとめる。
イノベーションの動機
- 「顧客の期待に応えるために」
- 「ユーザニーズの高まりと、それを実現する環境や技術の普及を背景として」
- 「顧客経験の不都合をなくすことを目的に」
- 「人の気持ち、生活者の想いを実現する金融サービスの提供を目指して」
- 「イノベーションとは、企業の宿命である」
イノベーションのドライバー
- 「イノベーションの目的と採用する技術とのアライン(整合)」
- 「テクノロジーとコンプライアンスの摺合せが重要」
- 「従業員ひとりひとりの取り組み姿勢(やる気)が加速」
- 「あくまでマネージメントの意思を反映」
- 「爆発的な成長への誘惑を絶ち」
- 「ユニークさに賭ける経営哲学が支える」
破壊的イノベーションの脅威と機会
会場からの質問、モデレータ―からの問いかけに答えて、
- 「イノベーションの機会に、特別なものは無い。日々のマネージメントにイノベーションを反映することが重要、創業以来そうしてきたし、これからも続ける。イノベーションは自然体」
- 「破壊的なイノベーションに、脅威は感じない。むしろ、業界全体の発展のためには、そうした荒波が必要。そうしたチャレンジは受けて立つし、そのようなチャレンジを続けてゆきたい」
最後に、セレントからは以下のメッセージで締めくくった。
経営者は、イノベーションに自信を
イノベーションにおける経営者の責任とリーダーシップの重要性は自明である。一方で、イノベーションは中長期にわたる旅で、時には失敗も許容する必要がある。また、長年かけて培った自らの企業文化すら打ち壊すことも稀ではない。経営者自身のイノベーションへの強烈なコミットメントを要求される。ドライバーとなるテクノロジーは日進月歩だが、確実に成功事例は増えている。経営者には、自信を持って欲しい。
破壊的なイノベーションと「改善(カイゼン)」を区分して、前者に取り組む必要性
破壊的なイノベーションが進展しない最大の理由は企業の外ではなく、内に存在する。特に、大企業には以下の性向が見られるが、これらはむしろ破壊的なイノベーションを回避させる。すなわち;
- 中小企業やスタートアップと比較して、圧倒的に潤沢な資金
- R&Dに投入できる十分な経営資源(特に、人と技術)
- (360度のマネージメントが必要な)多様な事業部門と多くの競合
- 孤立する「ブラックシープ(黒い羊)」
イノベーションを放置すれば、カニバリゼーション(共食い)は、自社のコア業務領域ばかりでなく、あらゆるニュービジネスにおいて発生してしまうであろう。イノベーターを嫌われ者の黒い羊として追放させないために、コア業務における日々のカイゼン(改善)の積み上げと、破壊的なイノベーションを峻別し、後者にこそ、マネージメントとイニシアチブを向けることが重要である。
「否定しない」リーダーシップとイニシアチブ
自社の経営資源、特に人材と技術力を信じ、「見えない大陸」や「測れないリスク」、「無消費な消費者」との戦いに傾注することが大切だ。遅々として成果が表れないこうした挑戦における、破壊的なイノベーションの威力を軽視してはならない。そして、常に「肯定的であること」。多様性や異質であること是認し、あらゆる可能性を否定しないリーダーシップとイニシアチブが待望される。
今日、産業構造が変わらない業界などどこにもなく、その地殻変動は随所で進展している。デジタルテクノロジーは、商品やサービス、顧客のエクスペリエンスや期待を変化させるだけでなく、価値連鎖やビジネスモデルそのものも、激変させている。
日本の金融業界は、これまでも、卓越したリーダーシップと俊敏な技術導入で発展して来た。人とテクノロジーが支える日本の金融業界、そこでのイノベーションの重要性をセレントは再度強調したい。2つのイノベーションサーベイの結果は、日本の金融業界に一層の変革を促す示唆を与えた。今こそ、イノベーションに関して、トップマネージメントのコミットメントと、テクノロジーベンダーのイニチアチブが期待される。
本イノベーションイベントは、セレント東京にとって、大きな挑戦だったが、サーベイとカンファレンスへの参加者の熱気は、そうした杞憂を一掃した。日本の金融業界は、イノベーションに対して極めて積極的かつ熱心である。セレントは、様々な形で本イベントにご参加下さった、金融業界のプロフェッショナルの皆様に深く感謝し、日本の金融機関におけるイノベーションの成功を熱望する。
図 2. イノベーションを支援する組織(金融機関・ベンダー比較)
出典: セレント「イノベーションサーベイ」2013/2014