データベース・アズ・ア・サービス (DBaaS): グローバル金融機関におけるプライベートクラウド実装
春は、コンベンションの季節。今年の日本は、アベノミクス以上に、イノベーションのキーワードで沸き立っている。
2014年4月の東京において開催されたオラクルのイベントにおいても、各業界をリードする国内外の企業のキーパーソンを東京に迎え、イノベーションの実践事例が多数に講演された。
「コスト削減と戦略投資をどのように行うのかは、システム部門における永遠の課題です。近年、クラウドが普及してきましたが、上記の課題をバランスよく解決する武器にも見えます。しかし、金融機関で上手に活用されている事案が少なく、『クラウド』を戦略的に活用しているグローバル金融機関の事例を、金融機関における適切なIT戦略・プライベートクラウド戦略としてご紹介します」、と事例金融機関のCTOによるプレゼンテーションに先立って、オラクル・コーポレーションのシニアディレクターはこのように挨拶した。本事例「グローバル金融機関におけるデータベースのプライベートクラウドへの移行」に、セレントは「ITソーシングモデルのひとつの理想像」を見出した。
本事例のキーポイントを、セレントは以下の通り整理する。
1. グローバル金融機関におけるIT基盤に対する4つの期待:
- オンディマンドサービス
- プロビジョニングの迅速性、弾力性
- サービスの計測可能性
- 監査とセキュリティ対応
2. 期待を実現した4つの原則:
- サービスのカタログ化とセルフサービス
- 適用技術の標準化
- リスク、セキュリティの一元管理
- 運用保守の標準化
3. 本事例を成功に導いた7つのKFS:
- プログラム管理
- エンタープライズアーキテクチャ(EA)アプローチとサービス定義
- エコシステム(LCM)志向
- サポートモデル
- セルフサービス
- インベントリ―とデータ品質管理
- ユーザ部門とのコミュニケーションとIT需要管理
10,000を超える物理ノードと、300近いプロビジョニング・プロファイルを、プライベートクラウドに移行したという大規模事例であることに加え、キャピタルマーケットの存在する全世界でフォロー・ザ・サン・オペレーションを実現している多国籍金融機関のITインフラは、そのミッションクリティカルの度合において群を抜く。そして何よりも、ベンダーの製品・サービス提供に加え、DBプロビジョニング運用とその保守を自行で実施するという、ITソーシングモデルの理想形をそこに見た。その際、EAの実践が成功の鍵であったことは容易に想定出来る。もちろん、高度なIT運用能力を保持するトップティア金融機関における最先端の事例ではあるが、そのアジェイルさは、日系金融機関に対する大きな刺激となったに違いない。
セレントは、金融機関におけるクラウド適用[1]をはじめとした、革新的なIT活用の取り組みを多数レポートしてきた。また最近時、1) デジタル&オムニチャネル、2) イノベーション&エマージングテクノロジー、3) レガシー&エコシステムマイグレーション、の3分野にフォーカス[2]し、金融業界におけるイノベーティブな取り組みをリサーチしている。多くの来場者にとって本事例は、コスト削減を超えて、新たな事業価値を生み出すテクノロジー・プラットフォームとしてのITを見直す契機となろう。正に、エマージングなテクノロジーを用いた、エコシステムマイグレーションの好事例とみなされる。
ソリューションを基軸とするベンダーも、ITサービスを基軸とするベンダーも、ハードウェアやソフトウェア、システム構築、システム運用、メンテナンスを垂直統合した事業形態で、統合ソリューションをサービス提供している。加えて、各種の共同システムをはじめとして、金融業界のシステムインフラは、既にサービス形態での利用が可能である。これまでの、オンプレミスを前提としたSIベンダーによるシステム構築に加え、金融機関のITソーシングモデルも、急速に多様化するであろう。
図 : 金融機関におけるとITソーシングモデルの変化
出典: セレント
セレントは、イノベーションとは、旧方式から飛躍して新方式を導入すること、そして、その革新の実行者を、企業家(アントレプレナー:entrepreneur)と呼ぶ。そして、常にテクノロジーは、変化を通じて顧客価値を実現する触媒であると信じる。新たなテクノロジーを味方に付けた金融機関のみが勝ち残る、優勝劣敗の時代が到来している。そのひとつが、DBaaSであろう。
[1]「クラウドが加速する日本の金融システム・金融IT産業のサービス化:鍵を握るモジュール化技術」(2011.7) など http://www.celent.com/ja/reports/29274
[2]「2014年モデルバンク パート1:デジタル/オムニチャネル・バンキング」(2014.4) など http://www.celent.com/ja/reports/32274