「現金」を超える利便性を求めて
金融と決済サービスを巡る情勢は一変した。いつの時代においても、こうした混沌とした時代における羅針盤の構想には、網羅的なフレームワークが不可欠である。セレントは独自の「ペイメントのタクソノミー(分類)」「ペイメントバリューチェーン」と呼ぶフレームワークを用いて考察する[1]が、決済のイノベーションは、決済サービス利用者の行動変化に起因し、その価値連鎖に存在すると考える。この領域で、新時代の決済フロンティアを開拓し、ブルーオーシャンを航海すべきだ。
「日銀ネット」「全銀システム」に代表される銀行間決済インフラ、「現金」流通の要であるATMや、「現金代替手段」であるクレジットカードのネットワーク網は、日本社会のレガシーシステムであり、その領域は既にレッドオーシャンである。構想すべきは、それらが実現していない「利便性」である。デジタル時代の消費者は、「現金」以上の利便性を望んでいないのか?いや、サービス供給者が、その需要に気付いていないだけだ。事実、ATMカードの発行枚数(3億枚)に対して、オンラインバンキングの契約口座数(6千万件)は2割に満たず、金融機関は「現金」以上の利便性を提供していない。[2] また、隆盛する電子マネーの担い手は、今のところ、伝統的な金融機関ではない。[3]
セレントは、「オープンイノベーションプラットフォーム」として、プラットフォームのレイヤ(新たな枠組みでのルールの形成)、イノベーションのレイヤ(新たな枠組み上の新たなサービスの創造)を実現する「構想システム」を提言したい。この「構想システム」には、APIエコノミー時代の「API提供者」としての役割も期待される。金融機関は、製造、小売、流通などの産業界とインフラを共有し、B2Bのみならず、B2C、つまり生活者の生活情報が、APIを通じて金融情報と融合し、いわば、テクノロジーが日常生活の中に、「金融サービス」を「溶かし込む」青写真を想定している。日常生活と企業の商流はこれまでシームレスでなかったが、これからはお金の流れをより身近にし、両者をより密接な関係にしようとしている。
金融の未来図を描くならば、金融が特別で独占的なサービスでなくなり、企業活動や消費生活と融合している図になるだろう。フィンテックの時代、金融サービス利用者の期待は高まり続けている。サービスを競うべき相手は、金融業界の外、ユーチューブやリッツ・カールトンの顧客認知、グーグルやアマゾンの顧客行動予知や優先顧客対応、全てのSNSが展望するサービスの可視化とシンプルなインタラクションかもしれない。その期待に応えることが、金融の未来図の羅針盤となる。
セレントは、「金融サービスの未来図」を構想するうえで、以下の3点が最優先の事柄として重視している。今後もこの重点ポイントでのインサイトを発信してゆく。
- 金融インフラを構築する技術の進展: ビットコイン、ブロックチェーン、分散型台帳技術の隆盛と、その先進的なユースケース
- 金融インフラの主流を巡るビジネスの攻防: レガシーな技術による金融インフラ(例えば、全銀システムのような各国のACH、SWIFTなど)と、新たに隆盛する、インターネットをフルに活用した情報と価値移動のインフラ(例えば、Gyft[4]とChain.comによる次世代デジタルギフト券サービスネットワーク、Ripple[5]による新たな国際銀行間決済サービスネットワークなど)の競合と共創の関係
- 決済サービスのブルーオーシャン: そうした新旧の金融インフラを駆使して提供される新サービスと、それが革新する新たなデジタルライフやサプライチェーン
- 個人向け:少額低頻度のP2P送金を極めて安価に提供するサービス
- 法人向け:商流、物流と金流を融合する次世代トランザクションバンキングサービス
個人向けの新決済サービスは、デジタルネイティブ世代の日常生活における新たな情報と価値移動の基盤として、既存の電子マネーを凌駕する破壊力を感じる。法人向けの新決済サービスは、決済指図と契約を電子化、自動化することで、企業活動の情報と価値移動の源泉を握り、既存のサプライチェーンを革新することが期待される。セレントはここに、破壊的なイノベーションと「資金決済革命」の可能性を見出す。
図: オープンイノベーションプラットフォーム
- [1]セレント: 日本の決済システムの動向 パート1: 金融市場インフラを巡るグローバルおよび日本の動向
- [2]セレント: 日本の銀行業界におけるレガシー・モダナイゼーション パート2:銀行業界への提言
- [3] ブルームバーグ: 野外ロックフェスのビールはスイカで購入-片手で楽々、現金不要に
- [4]Gyft, https://www.gyft.com/
- [5]Ripple, https://ripple.com/
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