「岩盤」規制解除に想うこと(その2)
2014年12月に発足した第3次安倍政府は、「日本経済再生本部」において日本経済の再生に向けた基本方針を発表した。 そこでは、「農業、雇用、医療、エネルギー等のいわゆる岩盤規制(bedrock regulations)に対して、一歩たりとも後退することなく改革を進め、新たな市場とビジネスチャンスを生み出していく。」と明言している。
法律や制度以外にも、成長戦略の妨げとなる「岩盤」が存在する。本稿では、こうした「岩盤」規制解除を巡る様々な議論を通じて、イノベーション機会を探る。
金融市場の「岩盤」
日本の金融市場には、依然として「岩盤」規制が残る。
証券市場おける「東京証券取引所の取引時間拡大」、銀行市場における「24時間365日の即時決済」は、その代表であろう。
東京証券取引所は昨年11月、検討していた現物株の取引時間の拡大を見送ると発表 した(1)。夜間取引を中心に可能性を探ってきたものの大半の証券会社から同意を得られなかったと発表。東証はこのまま取引時間を拡大しても多様な参加者が見込めないとの認識を示すが、東京市場の国際競争力の低下が大いに懸念される。
全銀協は昨年12月、「世界最先端の決済サービスを提供する」と宣言、「これまで未対応の平日夜間や土日祝日をカバーするための『新プラットフォーム』を構築し、全銀システムとして24時間365日、他行宛振込のリアルタイム着金が可能なシステム環境を整備する」との新振り込みサービスへの挑戦を明言した(2)。一方で日経は、「全銀協が決めたのは『24時間対応が可能になるような銀行界共有の新システム(全銀システム)をつくる』ところまで。時間延長に後ろ向きな銀行もあり、24時間365日対応の即時決済をいつ使えるかはまだわからないというのが実情」と報道する(3)。
規制緩和と技術革新は、イノベーションの両輪であり、デジタル技術の普及は、技術革新面での可能性を高め、一方で、規制緩和は、革新的な技術の適用機会を提供する。この規模の「岩盤」規制解除と、その先の成長戦略は、国家(金融規制当局)と企業家(金融機関、金融サービスベンダー)のコラボレーションなくして加速しない。逆に、それができれば、デジタル技術を熟知し事業意欲の旺盛な企業家と、成長戦略をサポートする国家のイニシアチブとが両輪となり、イノベーションが加速するだろう。
イノベーションを実現するデジタル技術は既に手中にある。課題は、その適用機会の創出であり、各種の「岩盤」の融解がその前提となる。
(1) 取引時間の拡大に関する検討結果について (東証)
http://www.tse.or.jp/news/20/b7gje60000051jek-att/b7gje60000051jhp.pdf
(2) 平野会長記者会見 (全銀協)
http://www.zenginkyo.or.jp/news/conference/2014/12/18233000.html
(3) 銀行振込24時間化、宣言とは程遠い実情 (日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC05H21_X00C15A1EA1000/