HSAベンチマーク調査の分析: 2008年市場トレンドと経済性‐II
Abstract
医療費の増大や医療貯蓄口座(HSA)に適した消費者主導型健康保険の普及が追い風となり、銀行はHSAの拡大による恩恵を続けています。2008年 1~6月にHSAの口座数は22%増え、口座残高は40%も増加しました。金融機関が流動性の危機に直面している現在、この分野の残高増は極めて明るい材 料といえるでしょう。しかし、HSAをめぐる状況が全てばら色という訳ではありません。1口座当たりの利益は銀行によって大きな差があり、中には損失が出 ているケースも見られます。また、銀行ごとに顧客サービスが異なるため、継続的な投資も求められています。銀行の収入が減り続け、常に資源の分配を迫られ ている現状は、HSAプログラムの多くがいまだ先の見えない段階にあり、そのため市場が引き続き「業界の淘汰」を待ち望んでいる状況を浮き彫りにしていま す。
セレントは2008年6月に「HSAベンチマーク調査の分析:市場トレンドと経済性」と題する第1回目のレポートを発行し、幅広い銀行が提供する医療貯蓄口座(HSA)のパフォーマンスを比較・分析しました。その後、銀行業界は激変に襲われ、複数の銀行が経営破たんや他行による買収または(株式取得による)一部国有化に追い込まれました。
一方、金融業界が混乱する中で継続性や一貫性を堅持している分野も見られます。その1つが成長するHSAの分野です。銀行セクターが相次ぐ危機にさらされ る中、預金残高の増加を目指すと同時に医療関連商品のニーズ拡大が見込まれる将来に備えてHSA市場での競争力を強化させる必要性が高まっています。
こうした競争の激化を受け、銀行はより詳細な情報に基づいて自らのパフォーマンスを測ることを求められています。上述のセレントによる第1回レポートで は、銀行のパフォーマンス測定に関して一般的な手法の枠を超えた新たな方法を提示しました。このレポートの発行を機に、金融機関が業界や競合相手に関する より詳細な情報を求めていたことが明らかになりました。HSAベンチマーク調査の結果をまとめたセレントの第2回レポートは支払方法、顧客サービスのレベ ル、組織のレベルを含む幅広いテーマを取り上げています。このベンチマーク調査にはHSA市場参加者の約3分の1を占める15行が参加しました。
主な調査結果は以下の通りです。
- 手数料は下落傾向が続いている。一部の銀行は書類申請を減らす目的から手数料を高めに設定しているが、調査対象となった銀行のうち過半数は口座開設手数料 を設けていない。また、銀行から報告された口座開設料には示されていないものの、多くの銀行はこうした手数料の免除に踏み出している。
- 月次手数料は下落に転じる見通しである。団体向けHSAの平均月次手数料は2008年1月の2.80ドルから7月には2.85ドルに上昇したが、これは新 規参入の銀行が加わったことによるところが大きい。個人向けは、1月の2.93ドルから7月には2.84ドルに下落している。また、一部の銀行は月次手数 料を2ドル以下まで引き下げている。
- 1口座当たりの利益は、2008年7月時点で21ドル~100ドルと銀行による違いが見られた。調査対象となった銀行のうち2行を除く全てで同利益は減少 傾向にある。背景には、金利低下に伴い要求払い預金(DDA)のスプレッドが縮小している上、開設手数料と月次手数料が下落していることがある。
- デビットカードによる支払いは全体の66%にとどまっており、銀行にとって放棄所得(インターチェンジ手数料)の機会があることを示している。また、医療費の支払いは従来の方法が使われることが多いため、支払い全体に占める小切手の割合はなお4分の1と高い。
- HSAを専門に手がける金融機関は、トップ25行や他のセグメントとは顧客サービスの考え方が基本的に異なる。専門金融機関では顧客サービスにかかってき た電話の80%近くを現場の顧客サービス担当者に転送しているのに対し、トップ25行で同様の対応をするケースは全体の40%、他のセグメントでは30% 以下にとどまっている。
今回の調査の参加者に対しては、セレントのアナリストとの「ギブ・バック」セッションを通じて個別銀行レベルでの詳しい分析結果を提供します。詳しい情報は松川恵美(ematsukawa@celent.com) までお問い合わせ下さい。