日本のポストトレード市場革新
デリバティブ清算インフラの刷新へ
日本のポストトレード市場は長らく、「システム変更、プロセス変更に伴うコスト」を自社に閉じたシステムとリソースで、固有な解決策を探ってきた。サーベイで聞かれた市場参加者の声からは、その解決手段の多様化が感じられた。自社の内外リソースを組み合わせたオペレーション構造の改革や、STPを加速するためにRPAやAIを活用したプロセスの自動化、無人化への取り組みは既に始まっている。今後は、プロセスとテクノロジー、そしてソーシングモデルを同時に革新し、その変化をコスト削減だけでなく、トップラインの向上に結びつけたプレーヤーが新たな市場の勝者となろう。デリバティブ市場は正に、その対応力と対応スピードを競う市場である。
インフラ革命へのパラダイムシフト
証券決済革命はキャピタルマーケット全体におけるインフラ革命への序章であり、金融機関、証券決済サービスのプロバイダー、そしてITサービスベンダーにおけるパラダイムシフトは不可避である。パラダイムシフトは、以下の3つの革新を同時に遂行した金融機関、テクノロジーベンダーがもたらすだろう。
プロセスの革新
証券決済サービスにおける全てのプロセスは、長らくマニュアル、ペーパーベース、バッチ処理を基本としてきた。今後は、デジタルテクノロジーが標的とするこの3つの「悪」を、自動化、ゼロペーパー化、リアルタイム化で革新しなければならない。フロントオフィスにおける電子取引のSTPをポストトレードサービスに拡張すべきだ。制度改正をその機会と捉え、レガシープロセスの一新が必要である。
テクノロジーの革新
これまでのコンピューター利用は、予め人間が考案したソリューションをコンピューターに教え込む(プログラムする)ことを前提としていた。いまやこうした制約や前提条件は、テクノロジーの革新によって徐々に取り除かれつつある。また、取扱い可能なデータ種別の拡大(非構造化データ、音声や画像、自然言語生成と処理)と、分析メソッドの拡大(ビックデータの統計解析、相関関係や因果関係に因る分析)は、キャピタルマーケッツにおける適用領域を激変しつつある。フロントオフィスに始まった人工知能やロボテックの導入は、ポストトレーディングにおいても適用が待望されている。もちろん、クラウド化によるオフプレミス運用やモジュール化による部分適用は、これまでにない有効性をもたらすだろう。
ITソーシングモデルの革新
ユーティリティモデルは、早晩、ポストトレード市場におけるITソーシングモデルの主流となろう。理由としてまず挙げられるのは、維持管理、運用コストの高騰とリソースネックが随所で顕在化している点である。また、ユーティリティモデルや従量制課金モデルは、ボラティリティを利益の源泉としているため、取引ボリュームの増減に対応してきたキャピタルマーケッツにおいてこそ、最も合理性が高い。ソーシングモデル革新のゴールは、コスト削減だけではない。テクノロジーとシステムのサービス化は、社内IT部門のプロフィットセンター化の機会をもたらすものである。また、ホワイトラベルモデルは、ITサービスベンダーのみならずポストトレードサービス企業にとっても業界標準を握る鍵となる。