今春のカンファレンスを振り返る(その1)
カンファレンスは、いつも刺激に溢れています。今春も各地で、パネルディスカッションやプレゼンテーションの機会に恵まれました。自らのプレゼンテーションを通じて、過去のリサーチ成果を発信するだけでなく、カンファレンス・チェアやパネル・モデレータの役割は、業界ソートリーダとのインプロビゼーションであり、将来のリサーチトピックスやインサイトテーマを仕込む、貴重な瞬間です。人が出会い、意見を交換し、議論を深める。そのための準備と当日の緊張感は、アナリストの責務であり、醍醐味でもあります。
本稿では、今春のアジア3都市での6つのカンファレンスを振り返ります。銀行、保険、証券、ウェルスマネージメントの各業界の議論に共通したキーワードは、フィンテック、デジタル、そしてモダナイゼーションでした。
Blockchain Business Conference 2016 (1月21日:ソウル)
http://www.celent.com/ja/news-and-events/events/blockchain-business-conference-2016
セレントを含めて4人のスピーカーが、ブロックチェーンを中心としたフィンテックに関する現状認識と取り組みを発表しました。
ソウル大学ビジネススクールの教授は、ビットコインとブロックチェーンの関連性と違い、ブロックチェーン技術の特長、イノベーションプラットフォームとしてのブロックチェーンへの期待を述べました。大手SIのLG CNSと、フィンテクスタートアップのcoinoneは、自社におけるブロックチェーンへの取り組みと、適用を目論むビジネス分野について、簡易なユースケース・デモを交えて発表しました。セレントからは、フィンテックの背景、ブロックチェーンの本質、金融サービスの行方について、グローバルと日本の立ち位置から報告しました。
参加者は総じて若く、ITのトレンドに敏感で、ブロックチェーンを新たなビジネス機会として捉え、その議論を挑む姿勢が印象に残りました。ソウルにおけるこのブロックチェーンのカンファレンスは、ペイメント分野での新たなサービス創出の意欲が実感出来ました。
本イベントについては、「フィンテックトレンドの昨日」 http://bit.ly/1txsSmD と題してポストしました。
Celent Analyst and Insight Day (2月24日:東京)
http://www.celent.com/ja/node/34449
今春のカンファレンスシーズンは、このイベントからスタートしました。
世界各地からセレントのアナリストが東京に集結し、テクノロジーが金融業界の土台をいかに揺さぶっているか、金融機関は新しい現実にいかに適応していくべきか、様々な議論とインサイトを発信しました。「イノベーション」「フィンテック」「ブロックチェーン」をテーマとした3つのセッションで、合計15のプレゼンテーションを披露しました。
イノベーションの手法とベストプラクティス、未来への分岐点 としてのフィンテック、ブームで終わらないブロックチェーンのインパクト。どのテーマも、市場を席巻するメガトレンドですが、着地点や方向性が見出せない議論となりがちです。このカンファレンスを通じてセレントは、フレームワークベースの考察、ベストプラックティスの活用、そして戦略的自由度の確保が重要であると提言しました。
このカンファレンスの前後でも、各社のPOCに関するプレスリリースが相次ぎました。2016年の春、東京での「フィンテック」を巡る議論は、「探索」から「実証」に推移し、先駆者の「ユースケース」や「ビジネスケース」を待望する声が多数聞かれました。
本イベントについても、「セレント アナリスト&インサイト・デー」 http://bit.ly/1T6R5u2 にポストしました。
Southeast Asia Banking Technology & Innovation Summit (3月31日:ジャカルタ)
http://www.celent.com/news-and-events/events/southeast-asia-banking-technology-innovation-summit
昨年のビザ条件の緩和は確実に奏功し、インドネシアでのカンファレンス機会が拡大しています。セレントは今春、銀行と保険の業界メディアから招聘を受け、カンファレンスに参加しました。
日本の約5倍の国土に2.6億の人口、イスラム教徒の比率が88%、2005年以降5~6%台の高成長率、2015年一人当たり名目GDP3,362ドル(世界113位)。首都ジャカルタには、アジア新興国市場の縮図があります。治安、交通渋滞、インフラと様々な課題を抱えつつも、そのすべてを事業機会として取り組むダイナミズムを感じました。
このバンキングのカンファレンスでは、銀行業界におけるデジタル化をセレントの「デジタルフレームワーク」を用いて提唱しました。市場の激流を注視し、顧客経験を通じて自社のブランド評価を計測すること。ITとビジネス両面の柔軟性を確保し、デジタル化による具体的な経済価値を追求すること。そして、そのための戦略ロードマップを策定、実行すること。この5点は、セレントの提唱するデジタル戦略の中核です。
また、カンファレンス・チェアの役割を通じて、全プレゼンテーションを紹介し、質疑応答をモデレートしました。登壇者の顔ぶれは、現地の金融当局、南アジアで活躍するグローバル金融機関の現地法人、そして当地でのデジタルバンキングに商機を見出すテクノロジーベンダーとフィンテック・スタートアップ企業。各社の発表に共通するコンセプトは、Financial Inclusion(金融包摂):低所得層の世帯や事業主が、信頼のおける金融機関から、適切な価格で高品質の金融サービスを利用できるようにすること。デジタル技術はそのイネーブラーとして、店舗やATMよりもモバイルがそのメインチャネルとして、大いに議論されました。