日本の金融機関におけるイノベーション①:2つのギャップ
6月5日、日本の金融業界と金融テクノロジー業界から約120名のご参加を頂き、「イノベーション&インサイト・デー 東京 2014」を開催した。本稿では、本イベントの要諦を2回に分けて報告する。
まず、基調講演において、先月実施した「日本の金融業界におけるイノベーションサーベイ」と、昨年10月にグローバルに実施した調査結果を比較し、そこからの示唆として2つのギャップを報告した。
その1:リーダーシップ・ギャップ
1. 重要性認識
「これから数年間、イノベーションは非常に重要。顧客期待は急速に変化しており、遅れないように対応する必要がある」との回答の割合は以下の通りであった。
- グローバル:79%、日本:81%
・・・・イノベーションの重要性に疑う余地はない。
2. イノベーションに取り組むリーダーシップ
「イノベーションの責任者(チーフ・イノベーション・オフィサー)がいる」
- グローバル:11%、日本:7%
「イノベーションの専門組織(イノベーション・CoE)がいる」
- グローバル:27% 日本:7%
「イノベーションに関するリーダーシップはCEOレベルの推進者に頼る」
- グローバル:62%、日本:85%
・・・・イノベーションに対する取り組みについて、トップマネージメントのリーダーシップ不足は明らかであった。
3. 3大阻害要因
- グローバル:①日常業務のルーチン②社内慣習③サポート体制の不備
- 日本:①社内慣習②経営幹部のサポート不足③日常業務のルーチン
・・・・グローバルにも日本でも、金融機関におけるイノベーションは、その重要性の認識に反して、リーダーシップ不足は鮮明であった。
その2:金融機関とベンダー間のギャップ
日本サーベイでは、イノベーションに関するイニシアチブを、金融機関と金融ソリューションベンダーの両セグメントに尋ねたが、両者の間にはもう一つのギャップが垣間見られた。
1. イノベーション推進の経験年数
- 金融機関とベンダーの間で大きな差異はなく、両者とも、
- 3年未満:54%、 5年以上:3割強
・・・・金融機関からすると、テクノロジーを供給するベンダーのイノベーションに関する経験は同程度、そのイニシアチブが十分に享受出来る状態では無いとみなされる。
2. 組織・体制
「チーフ・イノベーション・オフィサーを任命済み」
- ベンダー:24%、金融機関:7%
「イノベーション・CoEを任命済み」
- ベンダー:14%、金融機関:7%
「リーダーシップをCEOレベルの推進者に頼る」
- ベンダー:67%、金融機関:85%
・・・・ベンダーに一日の長が見られた。
3. イノベーションを主導する部門
- 金融機関:ビジネス部門が主導:30%、IT部門が主導:11%
- ベンダーのイノベーション提案:ビジネス部門向けは14%、IT部門向け:17%
- ビジネス・IT両部門での取り組み:金融機関:59%、ベンダー:69%
・・・・・金融機関のイノベーションにおけるIT部門のイニシアチブと、ベンダーのビジネス部門に対するイニシアチブに関して、ギャップが垣間見られた。
4. 「デジタル金融サービス」への取り組み
セレントが提唱する、「デジタル金融サービス」(デジタル技術を活用した、革新的な金融サービスの提供)への取り組み状況においても、金融機関とベンダーの優先順位に明らかにギャップが見られた。
- 金融機関の優先分野:「プロセス改善」、「取引機能拡張」、「商品・サービスのカストマイズ」
- ベンダーの取り組み分野:群を抜いて「ビックデータ」、「モバイルと双方向通信」、「オムニチャネル」
・・・・金融機関は総じてコンサバティブ、一方、ベンダーはアグレッシブな提案姿勢が浮かび上がった。
このギャップは何を意味するのか?新しい(若しくは、流行の)テクノロジーを積極的に提案するベンダーと、その有効性を見出せない(若しくは、評価中の)金融機関の取り組みギャップであろうか?少なくとも、現時点では両者のイニシアチブがきっちりとシンクロしていないことは、残念ながら、容易に想定されよう。また、新たなテクノロジーが、インクリメンタルな(カイゼン的な)イノベーションには適用されても、ディスラプティブな(破壊的な)イノベーションのドライバーとなれているか?
サーベイでは、これら数値で分析出来る項目に加え、自由回答における参加者の貴重な「つぶやき」を記録した。それらの詳細と分析は、近刊のセレントレポート「日本の金融機関におけるイノベーション:マネージメントとイニシアチブのギャップ」をご参照願いたい。
http://www.celent.com/ja/reports/32573
図 1. 他業界と比較した、金融機関のイノベーションの進捗レベル認識(グローバル比較)
出典:セレント「イノベーションサーベイ」2013/2014