日本市場の進展:ホールセールペイメントにおける新たな展開
「決済インフラ」シリーズ パート3 ― ホールセールペイメント編のハイライト(その5)
本レポートシリーズは、セレントのペイメントタクソノミーに基づき、A) 決済手段とチャネル、B) 法人決済:主に銀行から(金融法人を含む)法人顧客に提供される決済サービス(ホールセール決済サービス、大口決済サービス)、C) 個人決済:主として銀行から(小売店を含む)個人顧客に提供される決済サービス(リテール決済サービス、小口決済サービス)の動向に言及する。加えて、各種決済サービスの背景、競争条件として、D) 金融市場インフラ(FMI)を捉える。
これまでに、日本の決済インフラの要諦である、全国銀行データ通信システム(全銀システム)をPart 1で、日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)をPart 2で考察した。
本Part 3では、B) 法人決済、すなわち大口決済、ホールセールペイメントに注目し、決済インフラの高度化、新たな技術の隆盛とサービス事業者の出現、そこでの新たな価値とリスクの連鎖を把握し、決済サービスの高度化やディスラプティブな決済サービスの創出において考慮すべきグローバルトレンドと、日本市場の現状、今後の取り組みについて言及する。
また、続くPart 4では、A) 決済手段とチャネルの多様化の進展、C) 個人顧客に提供される決済サービス(リテール決済サービス、小口決済サービス)の動向、そこでの組織とテクノロジー利用の動向に言及する。
本稿は、6回シリーズでそのエッセンスを紹介する、第5回である。
***
日本のFMIも決済インフラ高度化への歩みを続けている。
日銀ネットは2016年2月に稼働時間を再延長(21時まで)した。その後もその有効活用に関する様々な議論が展開されている。主にホールセール決済インフラの進展の方向性として、先ず製造業を中心とした金融サービスの需要サイドの海外展開の加速、日本国債の海外保有の進展、グローバルな担保需要の増加などが想定される。この金融市場インフラのグローバル活用を通じて、国内の豊富な円建て資産の海外での担保利用や、海外進出企業や非居住者に対する決済サービスの拡充を図る取り組みが一層拡大すると見込まれる。
全銀システムは2018年に2つの大きな前進を果たした。2018年10月に稼働した「モアタイムシステム」(休日と夜間に稼働し、他行宛振込のリアルタイム着金を可能とする仕組み)は、既存システム(コアタイムシステム)とあわせて全銀システムの24時間365日稼働を実現した。また、同年12月に稼働した「ゼディ」(全銀EDIシステム)は、企業間送金に係る電文を金融取引における国際標準であるXML 電文に移行し、国内送金電文に商流情報の添付を可能とした。
日銀ネットのグローバル活用の進展
日銀ネットは、日本経済のグローバル化と金融機関の海外展開への対応を続けている。「日銀ネットの有効活用に向けた協議会」における内外の環境変化への対応策の検討を踏まえて、日銀ネット端末のグローバル展開、海外決済システムとの連携を通じて、金融市場インフラ(FMI)のグローバル展開を加速している。
日銀ネット端末のグローバル・アクセス
日本銀行は、海外市場との決済時間帯の重なりを確保し、クロスボーダーの円や日本国債の円滑な決済をサポートするため、2016 年2 月に、日銀ネット当預系・国債系の稼働終了時刻を19 時から21 時へと延長した。この稼働時間延長を有効活用し、日銀ネット利用先によるグローバルな事務処理体制の構築に資する観点から、2017 年12月、海外に設置された日銀ネット端末の利用(グローバル・アクセス)の申請受付を開始した。
グローバル・アクセスは、日銀ネットへのコンピュータ接続による海外からのアクセスと比較して低コストで利用できることから、国境を越えて円滑な事務処理体制を構築する有効な手段となり得る。
香港ドル即時グロス決済システムとの間のクロスボーダーDVP リンクの構築
2018年4月、日本銀行は、日銀ネット国債系を香港ドル即時グロス決済(RTGS)システムと接続し、日本国債と香港ドルを同時決済するためのクロスボーダーDVP リンクの構築に向けた対応を2018 年度から開始すると発表した。本クロスボーダーDVP リンクの構築は、2021 年春頃の実現を目指して準備を進めていく方針である。
クロスボーダーDVP リンクについては、2013 年、ASEAN+3 において「クロスボーダー決済インフラ・フォーラム(Cross-border Settlement Infrastructure Forum, CSIF)」が設置され、検討が進んでいる。
SWIFT gpi による外国送金追跡機能のサポート
2018年9月、SWIFTと全銀協は、外国為替円決済制度(以下FXYCS)のマッピング仕様を発表した。本マッピング仕様を利用するFXYCSの直接参加銀行は、日銀ネット経由で外国送金の銀行間決済についてエンドツーエンドでの追跡が可能になる。日銀ネットを経由したこのサービスにより、SWIFTによる外国送金のためのグローバル・ペイメント・イノベーション(以下SWIFT gpi)の機能は、2018年11月からFXYCS上でも有効となった。
SWIFT gpiは現在世界中で実施されているSWIFTの外国送金通信量の30%を占める。日銀ネット経由で指図送信されるFXYCSがSWIFT gpi対応となることにより、SWIFT gpi対応通貨としての円建て決済がアジアや世界に広がることが期待される。