セレント イノベーションフォーラム「デジタル金融サービスへの取り組み」を振り返って(その2)
セレントは、2月の「ラウンドテーブル:Making Innovation Happen」、6月の「イノベーション&インサイト・デー」に引き続き、10月17日、「イノベーションフォーラム」を開催した。
本稿は、本イベント報告の第2回である。
基調講演に続く「イノベーションパネルディスカッション」では、「デジタルバンキング/ペイメントサービスの課題と今後のあるべき姿」と題して、日本の金融・IT業界を代表する3人のパネリストと共に、イノベーションに関する取り組みと想い、その実践と今後の展望が議論された。バンキングとリテールペイメントを主たるサービスの舞台とするものの、モバイルバンク、M-POS、クラウドサービスと、立ち位置の異なる3人のパネリストのディスカッションは、先進的な取り組みとイノベーションに賭ける熱き情熱に溢れるものであった。
パネルの議論は、各社の事業概要の紹介に引き続き、デジタルバンキング・ペイメントサービスへの取り組みから、デジタルサービスを加速する要因と阻害する要因へと展開された。以下、発言者は特定せず、パネリストの印象的なコメントを、引用する。
「革新的なサービスであればあるほど、既存の価値との軋轢が生じる。そうしたコンフリクトや不安の解消が、とても重要な要素。そうしたコミュニケーションや努力の上に、破壊的威力を持ったサービスが提供される。」
「ヒントやアイディアは無限にあるが、その実現を妨げるのは、実は自社の中や自分自身の中にある。その実現に向けた組織のリーダーシップや個人のパッションをどう持続させるかが、成功の鍵。」
「多様化し進化するペイメントビジネスのなかで、銀行の立ち位置が難しい時代となった。エコシステム全体を見渡し、自社の役割と強み、グループ連携やシナジーの考慮が必要。顧客に対する付加価値が、尺度となるべき。」
「事業ドメインが大切。“Make commerce easy”とは、お客様のビジネスを全方位で効率化し、本来の商取引の根幹である、お客様との会話や商品についてのコミュニケーション時間を増やすこと。次々と開発される新サービスも、この事業ドメインから決してぶれない。」
「当社はテクノロジーカンパニーであり、テクノロジーを前提にペイメントサービスを設計している。高度なテクノロジーが隅々まで普及することで、全ての人々にサービスが提供可能となる。このことは、当社のビジョンである。」
「利便性と安全性とデザイン性の追求が鍵。そのためには、物事をシンプルに捉え、ゼロからサービスを設計すること。金融サービスでは、『これまでのやり方と違うから危険』と思われがち。これは間違い。何故、既存のやり方が安全と言えるのか。」
「そのテクノロジーに出会って、人生が変わったと思えるほど、クラウドサービスには大きなインパクトと可能性がある。そうした可能性を、もっと他産業から学ぶべき。」
「机上の空論よりも、まず実践を行った企業が勝ち残る。その中で、自社のコアバリューやビジネスの有効性を検証する。テクノロジーがビジネスをドライブする事なしに、今日の競争優位は保てない。」
「当初のコアバリューフォーカス、特に失敗コストの軽減などの観点に加え、予期しないトラフィックの増加対策、グローバル展開など、今日的なビジネス課題に直結した取り組みが、クラウドにはある。」
「Apple Payは、ペイメントサービスへの付加価値追求として、歓迎される。一方で、グローバルと日本の社会文脈や商慣習の違いもハイライトされるであろう。」
「エコシステムの構築と破壊が鍵。アップルは、常にこの挑戦を続けている。音楽産業におけるディスラプティブなイノベーションは、業界構造のみならず、消費者のライフスタイルそのものを変えた。リテールペイメントにおいてはどうか?」
セレントは、自社と自らの成功体験に慢心する間もなく、次の取り組みや改善に、新分野での成長を追求するパネリストの姿勢に「イノベーターのDNA」を見出した。何よりも「イノベーションが大好き」で、常に「イノベーションを実践」し、チームを「イノベーションに導く」ことが、今回の3人のイノベーターに共通であった。イノベーションは、「人が生み出す『進化』」である。デジタルテクノロジーを駆使するのも、デジタルサービスを展開するのも、皆、人の営みであり、「人の期待と意欲」が最も重要なポイントと認識を新たにした。
最後に、パネルディスカッションにご登壇下さったパネリストの皆様、また、様々な形で本イベントにご参加下さった日本の金融業界のプロフェッショナルの皆様に深く感謝申し上げたい。セレントは、今回もまた、本イベントがご参加の皆様にとって、次のイノベーションの触媒となることを強く祈念する。
イノベーションを巡る日本での議論は、この後、シンガポール、オーストラリアでのラウンドテーブルとカンファレンスに引き継がれた。日本で、アジアで、セレントはグローバルな金融イノベーションリーダーと共に、明日のソートリーダーシップを探り続けていく。
図 3 音楽産業における、ディスラプティブ・イノベーション
出典:Henry Chesbrough, Open services innovation, セレント