テクノロジートレンド・ プレバイザリー:証券業界とリスク管理
2024年の業界動向と優先課題 |日本語レポートシリーズ
Abstract
セレントは毎年、金融業界の各セクターが注目すべきテクノロジートレンドを深く掘り下げた、業界別プレバイザリー・レポートとウェビナーを公開している。
プレバイザリーとは?
この言葉は、プリビューとアドバイザーを組み合わせたセレントの造語で、金融サービスとテクノロジーを追求するお客様が、注目すべき金融業界のテクノロジートレンドを示すもの。セレントは、金融機関と金融テクノロジーベンダーが注目すべきトレンドを特定し、優先順位をつけることができるよう、ノイズや誇大広告をふるいにかける。また、各社がビジネスの展望とテクノロジーの導入計画を策定するサポートのために、意図的に前向きに業界動向を考察している。この日本語レポートシリーズはその日本語サマリーとして、日本市場の皆様の視野を広げ、新しいアイデアの発見、そしてイノベーションの契機となることを願い提供するものである。
2024年業界動向のハイライト
以下は、本レポートシリーズで取り上げる各業界動向のハイライトである。
リテールバンキング
銀行は、取引記録や行内ワークフローの自動化から、デジタル・ファーストの顧客エンゲージメントの強化まで、テクノロジーへの投資を通じてアジリティ(俊敏性)を追求してきた。2024年、リテール銀行は、ローコードプラットフォームからクラウド、生成AIに至るまで、組織のアジリティを次のレベルに引き上げるために、ますます多様なツールを使いこなしていくだろう。本年の主要テクノロジートレンドは、カスタマー・エンゲージメント、プロダクト&ケイパビリティ・イノベーション、オープンエコシステム、ペイメント、そしてエマージング・テクノロジーの各主要テーマにおけるアジリティ向上のためのテクノロジーとデータ活用策である。
コーポレートバンキング
市場環境とリスクは、銀行とその顧客企業にとって依然として厳しい。その一方で、イノベーションの優位性は、リスクを管理しながら俊敏に大規模なイノベーションを起こせる銀行に傾きつつある。銀行はコンプライアンス上の課題に悩まされているが、より機敏になり、ソリューションを迅速に提供する必要がある。企業にとって、借入コストは上昇を続けており、流動性の管理は依然として最重要課題である。フィンテックの評価が低下し、オープンバンキングのリスク管理上の問題が発生し、預金残高が大銀行に移った昨年、イノベーションの振り子は、より高い予算と健全なリスク枠組みを持つ大銀行に振られつつある。
生命保険
生命保険にとって、不安な時期ほどデジタル・フットプリントを増やすのに適した時期はない。景気、金利、パンデミックに至るまで、保険業界は近年苦戦を強いられてきた。今こそ未来に投資すべき時であり、それが実現しつつある。生成AIのような新技術は、代理店と消費者のデジタル体験の向上を補完する。クラウドは異端から主流へと移行した。目指すべき新しい姿は、ダイナミックで未来思考の業界像である。
医療保険
医療業界においては困難な時代が続いている。パンデミックが常時流行する時代を迎え、医療は資源不足と情報へのアクセス上の課題に苦しみ、世界的な不安と厳しい経済が保険会社の財政を圧迫している。カスタマー・エクスペリエンス、データとアナリティクス、コア・プロセッシング・システムといった従来型の投資に加えて、生成AIなどの新技術への投資も高水準で続いている。保険会社は新たな差別化要因を探っている。それは、一層のコスト管理と新たな成長の基盤の上にある顧客体験を中心に展開されるだろう。
損害保険
保険のバリューチェーン全体でコストが高騰している今、デジタルトランスフォーメーションの限界に挑むには理想的な時期とは思えないかもしれない。しかし、保険会社が世界的な経済不安、環境問題、そして保険契約者から寄せられる前例のない試練に直面している今、時代遅れのプロセスを全面的に更新すべきことは明らかである。昨年のマクロ経済の暗雲は、インフレ、地政学的不安、気候変動だったが、2024年も間違いなくその状況は続くだろう。新たな要因として、生成AIの動向に注目する。大規模に採用されれば、それは雇用市場を完全に破壊すると同時に、人と企業、そして様々なバリューチェーンを根本的に変えるだろう。それはおそらくスマートフォンがクリティカルマスを達成して以来、最も衝撃的なテクノロジーであることは間違いない。
キャピタルマーケッツ
世界的なマクロ経済情勢が資本市場全体に課題をもたらす中、金融機関はハイテク戦略を決定する際にROIに再注目している。ビジネス革新とテクノロジー変革のために適切な投資をすることは、これまで以上に重要になっている。そのためには、ビジネスケース、ワークフロー、市場構造、規制の変化を理解する必要がある。業界は、金利上昇、継続的な規制の変更、地政学的緊張など、数多くの破壊的要因の影響を受け続けている。M&Aや新規株式公開(IPO)といった伝統的な資本市場業務の減少や、パンデミック後の取引量と収益の圧迫の影響は大きい。政治と選挙をめぐる緊張、戦争と情勢不安、気候変動と自然災害など、市場の不確実性が継続している。重くのしかかる規制の変更、システミック・リスク、サイバーセキュリティに引き続き注目が集まり、効率化とコスト抑制が優先されているが、テクノロジー支出の削減にはつながっていない。現代化や自動化、あるいは新商品・サービスを通じた競争優位の構築など、ハイテク投資は減少していない。
ウェルスマネジメント
ウェルスマネジメントは転換期を迎えており、従来のオペレーショナルモデルを変える新たなテクノロジーの導入を模索している。従来とは異なる様々な企業との競争に直面する中、顧客を惹きつけ、維持するための競争が激化している。パートナーシップ、テクノロジースタックのアンバンドリング、API統合、データ戦略、クラウド、新興テクノロジー(生成AIなど)により、ウェルスマネジメントのサービス領域が広がっている。新しいウェルスマネジメントのパラダイムは、次のような地殻変動に支えられている:AIによるナレッジ革命、新たな顧客基盤の拡大、流通モデルの革新と民主化、営業モデルを変えるテクノロジーの戦略的利用。2024年のウェルスマネジャーはもはや単一業界内の単一プロバイダーの単一プラットフォームに縛られることはない。フィンテック・パートナーシップは、テクノロジースタックのアンバンドリングによって促進され、クラウド、API、データに主導されるオープンデータエコシステムは、ウェルスマネジメントサービスのフロンティアを拡張している。
リスク管理
生成AIの登場、デジタル資産の導入、詐欺やサイバーリスクの増加など、テクノロジーの乱高下により、リスクリーダーはこれまで以上に機敏な対応が求められる。不確実性の高まりに直面する一方で、テクノロジーの優先順位は明確である。5つのトレンドが、リスクエグゼクティブのテクノロジーへの優先順位を決定する。1) AIが本番稼動へ:不正検知は、試験的に実施されているユースケースのリストの最上位にあり、CROはこの新しいテクノロジーの先陣を切っている。2) AIのためのデータ基盤の構築:生成AIの登場は、高度なAI技術(機械学習、自然言語処理)への関心を高め、これらのモデルにデータを供給するため、金融機関は次世代データ管理技術を必要とする。3) オペレーショナル・レジリアンス(OR)を高めるためのテクノロジー変革:2024 年には、ORに対する規制当局の注目度がさらに高まるだろう。英国、香港、シンガポールはすでに当初の期限を過ぎており、EUと英国の金融機関は2025年第1四半期までに完全な準備を整えなければならない。金融機関は、各部門のサイロ化や分断されたリスク機能を統合するため、GRCテクノロジーの変革に着手している。4) コンプライアンスから金融犯罪対策への移行:金融犯罪コンプライアンスでは、ルールベースの行動検知から純粋な機械学習ベースの検知へのシフトが加速している。グーグルを含む複数のベンダーがこのシフトを支持し、純粋な機械学習による取引監視システムを展開している。5) 新興・再興リスク:FTC、SEC、および国際的な規制機関によるグリーンウォッシングに対する強制措置は、環境・社会・ガバナンス(ESG)問題の虚偽表示の重大な脅威を強調している。気候変動リスクの開示規則は、世界的に発展し続けている。また、FTXや他の取引所での混乱は、デジタル資産をめぐる規制の枠組みの進化を促している。