マネーマーケットの改革:MMFの先行きは不透明
Abstract
米証券取引委員会(SEC)は2010年に1940年投資会社法の規則2a-7を改正し、既にマネーマーケットファンド(MMF)の大幅なリスク削減を進めています。この改正によってファンドの流動性は飛躍的に高まり、2008年に発生した同ファンドをめぐるリスクは大方軽減されました。しかし、SECが変動NAVの算出を義務付ければ、過剰規制になりかねないでしょう。
2008年に発生した金融危機への対策として、SECは様々な規制改正を実行してきました。 なかでも流動性を高めるため、有価証券の加重平均満期(WAM)を90日から60日に短縮したことで、オーバーナイトで運用するキャッシュや有価証券の割合は資産の10%に上昇しました。いわゆる「中堅証券」の場合、従来この割合の上限は5%以とされていましたが、現在は3%に引き下げられています。
セレントの最新レポート「マネーマーケットの改革:MMFの先行きは不透明」は、SECが今なお検討中の新規制について取り上げています。具体的には、変動NAVの導入、余剰資本引き上げの義務付け、償還金の受領制限(満期後30日経たないと償還金全額を受領できなくする)などが挙げられます。
「変動NAVの算出が義務付けられれば、投資家はMMFを売買する意欲を失い、最終的に2兆7,000億ドル規模の市場が消失してしまいかねません。健全で活気に満ちた市場の主な原動力となるのは積極的な経済活動ですが、そうした活動は確実性の上に成り立つものです。現時点で非常に多くの規制改正が提案されている上、施行スケジュールが明確に定まっておらず、近い将来にさらなる規制改正が実施される可能性もあります。こうした状況は経済活動を抑制し、既に進められている前向きな改革を妨げることにもなりかねません」と、セレントのシニアアナリストでレポートを執筆したスコット・サリバンは述べています。
「米国企業の短期資産に占めるMMFの割合は、2008年のピークである36%から現在は25%に低下しています。変動NAV算出の義務化によってMMF市場が混乱すれば、投資家に影響を及ぼすだけでなく、金融システムにも打撃を与えかねません」
レポートでは、MMF業界の今後の見通しについて予測しています。現状では、MMFを運用するメリットは限られています。低金利下では実質的に手数料が消滅してしまう上、規制改正で各ファンドの運用コストが膨らむ可能性があります。変動NAVを含め、SECが提案している規制改正が全て実施されれば、金融システムの重要部分が危険にさらされることになり、その影響は計り知れないでしょう。