証券市場の進展とTLOのコンセプト
日本の証券市場は、その隆盛を極めている。
今こそ、TLO(トレーディングライフサイクルの最適化)のコンセプトを実現するタイミングと考える。
1. 現下の株式市場、債券市場の動向:
2015年4月、日経平均株価は大幅に上昇し、終値で2万円を回復した。ITバブル期の2000年4月以来となる。
主要国の金融緩和で生まれた潤沢な投資マネーは、この15年で新陳代謝が進んだ日本の株式市場に流入した。
株価2万円は、日本経済がデフレで長期停滞した「失われた15年」を脱し、再成長のスタート地点に立ったことを意味する。
一方、債券市場は乱調であった。国債市場で、長期金利の利回りは乱高下した。
長期金利の指標となる新発10年債(337回債、表面利率0.3%)の利回りは、1月に0.195%となり、初めて0.2%台を割り込んだ。
しかし、2月には一時、0.400%まで回復、これを受けて、長期プライムレート(優遇貸出金利)は、0.10%引き上げ年1.15%に改定された。
欧州市場では、マイナス金利の普及から、「ボンド・プロキシー(債券代替)相場」との表現もされるが、日本市場においても、株式市場と債券市場の動向は対照的である。
2. 保険会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の動向:
長期金利の乱高下する要因として、保険会社の国債離れが指摘される。
生命保険協会によると、2014年11月末時点の生保の保有する国債残高は148兆9千億円。前年同月比で6千億円減っており、この結果、買い手を失った国債利回りの乱高下を招いたと言われる。
更に、日本郵政(ゆうちょ銀行、かんぽ生命)の国債離れも鮮明である。
独立行政法人郵便貯金、簡易生命保険管理機構に提出された投資計画によると、
残高ベースで、ゆうちょ銀行が2014年度末(計画ベース)の144兆8千億円から2015年度末は111兆5千億円に、かんぽ生命も同様に、69兆3千億円から68兆7千億円に減る。
残高ベースから逆算すると、30兆円余りが国債市場から流出する計算となる。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に次ぐ買い手として、株式市場の関心を呼ぶ。
3. 潜在的なリスクとその対策:
「超低金利で稼げない分をどこまでリスク資産に振り向けるか」、保険会社も今秋の上場を展望する日本郵政も、目線は同じであろう。
こうした「グレート・ローテーション」(大転換期)とも呼ばれるアセットクラスのシフトは、2つの意味で大きな潜在的リスクを含む。
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パフォーマンス上のリスク:
- 現在の株価水準が適正であるか、更なる高騰のための経済ファンデメンタルズの本質的な構造改善がなされるか?
- GDP、長期金利、債券利回り、企業業績、企業の生産性の相関関係とサイクルの変化は、これまで同様か?
- 企業業績と設備投資の相関性の変化は?(現下の売上増加の伴わない収益改善は、企業の設備投資増加の誘因とならない)
いずれも、株価水準の継続的な上昇(ポートフォリオのパフォーマンス)に関するリスクとして想定される。 -
オペレーション上のリスク:
一方で、株式、債券共に、その資産管理に要する技術は高度化し、以下のリスクを抱える。
- 市場の成長性と技術革新の速度(電子取引の広範な普及に伴う、安全性とスピードのトレードオフの顕在化)
- 分断化した市場情報(市場のグローバルな広がりと、情報のフラグメンテーション)
- トップティア(最大手)プレーヤーに、情報利用テクノロジーが偏って存在すること
中でも、グローバルな最大手のバイサイド(資産運用会社)におけるトレーディングライフサイクルの改善に向けた取り組みは注目される。
その動向は、装置産業からトレーディングのプロセス産業へのシフトと呼べるほど、そこでの技術革新は急であり、質的な向上は著しい。
リスク資産を管理する能力は、こうしたトレーディングのオペレーション(トレーディングサイクル)に依存する。
日本の保険会社や日本郵政においても、その最適化は急務である。
図1. TLOのコンセプト図:
(出典:セレント)
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