グローバリゼーションそしてデジタル

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29 July 2015
Eiichiro Yanagawa

日系最大手企業のグローバリゼーションが止まらない。

いずれも、各セグメントでの過去最高額規模のM&Aを通じて、中長期での収益性と企業価値の増強、グローバルな成長機会と事業ポートフォリオの分散をその戦略的な意義として掲げる。一方で、リーマンショック以降、歴史的な円安局面にある為替相場は、その買収価格の高騰と財務的なリスクを顕在化させている。本稿では、直近のグローバル化動向、その背景とリスク、各セグメントの可能性を展望する。

1. 米国スペシャルティ保険グループHCCインシュアランス・ホールディングス社の買収

2015年6月 東京海上ホールディングス 発表
損保業界最大手、海外比率でも最上位の企業が立ち止まらないことに、大きな意義を感じる。買収総額は約9,400億円。経験と実績の豊富な第一人者においてのみ可能な巨額な意思決定は、同社の歴史にまた新たなページを加えた。
同社発表にある、
①海外事業の規模・収益の更なる拡大を実現する
②グローバルに、より分散の効いた事業ポートフォリオの構築を可能とする
③資本効率の向上と持続的な収益成長を可能とする
の3つの方向性は、今後も、日系企業に共通するグローバル展開の方向性と認識される。
為替、金利などの投資条件の考慮以上に、本来事業の規模、範囲そして効率性や高度化を追求する姿勢は、外国人投資家比率の高まりと共に、「物言う株主」から継続的に要求されている。逆に、こうした取り組みが、専ら海外M&Aを通じてのみ顕在化していることは、国内市場の硬直性とそこでの新たな事業機会の困難性を写す。
保険に限らず、金融サービス市場全般について、一層の規制緩和と新規事業者の参入促進が待望される。更には、アウトバウンドM&Aを通じた海外新規事業開拓が、国内既存市場へのシナジー効果をもたらすことが期待される。

2. 米国の上場生命保険グループStanCorp Financial Group の買収

2015年7月 明治安田生命保険 発表
中期計画に定めた投下資本金額上限を遥かに上回る投資金額に、日系大手生命保険会社の決意を感じる。
本件投資総額約6,000億円は、同社2014年6月策定の「明治安田NEXTチャレンジプログラム」における上限2,500億円を凌駕する金額規模、日系生命保険のM&Aとして過去最大規模と報じられた。
日本の生命保険市場は、全世界の20%を占め、米国(22%)に次ぐ第二位の規模を誇るが、その成長性(過去10年間の年平均成長率3%)と寡占度(上位5社で60%以上)から成熟市場とみなされる。一方、スチュワードシップ・コード(2014年2月)とコーポレートガバナンス・コード(2015年6月)の改定は、機関投資家と発行体企業に一層のROE経営を促している。
潤沢な手元資金を背景に、果敢な海外M&A戦略を遂行する同社の戦略は、
①全体収益と事業ポートフォリオの多様化、②世界最大市場での事業基盤の獲得、と理解されるが、加えて、
③異なる事業ポートフォリオの管理のための高度なガバナンス能力、が要請される。
その規模と難易度において、新次元に挑む日系金融機関の動向が注視される。生命保険業界においても、確実に、海外戦略の機動力と巧拙を競う時代となった。

3. 英国の有力経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)を発行するフィナンシャル・タイムズ・グループの買収

2015年7月 日本経済新聞社 発表
本件を通じて日経は「アジアで最強の経済メディア」という枠を超え、グローバルな総合情報企業への進化を加速すると感じる。
既に、両紙のデジタル有償購読者は100万人に迫り、資本市場と実物経済における良質なコミュニティを形成している。また、記者や編集の人的資源や取材網、ロンドンと東京の両資本市場に直結した情報提供機能など、前例のない規模でのコンテンツ力が期待出来る。
今後は、グローバルプラットフォームの進化に期待する。その戦略子会社QUICKを通じた金融・資本市場情報配信サービスは、マシンリーダブルなデジタルコンテンツとその配信基盤を拡充することで、他に類を見ない真にグローバルなマーケットデータプラットフォームへの進化を可能とする。データ鮮度やカバレッジに加え、デジタル機器対応とロボアドバイザリーなどの分析機能などが期待される。
世界最強の経済メディアの実現が、日本の資本市場の一層のグローバル化を加速することを期待する。

4. M&Aとグローバリゼーションそしてデジタル

この3案件に共通する事柄は、日本の金融ビジネスとテクノロジーに多くの示唆をもたらす。

1) トップ企業の変貌:
現下の為替水準が、日系企業のアウトバウントM&Aに快適な水準であるとは、誰も感じていない。しかし、金融セクター以外の大型案件を振り返ると、キャノン(28.2億ドル)、日本郵政公社(64.2億ドル)、大塚製薬(35.1億ドル)、サントリー(160.1億ドル)、旭化成(22.1億ドル)、LIXIL(38.4億ドル)など、各セグメントのトップ企業が、不断に、果敢に挑んでいる。

2) アウトバウントM&Aの地殻変動:
これらの巨額ディールからは、明らかに地政学的な変化が見出せる。それまでの、将来的な成長を期待した東南アジアの小規模(数億ドル)の取引から、現下の主体は、完全に成長した欧米先進国市場における、自社に無い(若しくは弱い)事業分野のメガディール(数十億ドル)へシフトしている。それは、イノベーションと同様、自社のこれまで培った事業価値尺度では測れない、「見えない事業やブランド、顧客」を買うチャレンジである。

3) 意思決定のトップダウンと超迅速化:
こうした、巨額で高度な意思決定を迅速に行えたトップ企業が、中期計画でコミットした海外事業戦略や予算を、実現(若しくは凌駕)している。明らかに、日本の製造業や金融機関の特長であった、緻密な積み上げによるボトムアップの意思決定プロセスとは、そのスピード感が異なる。このトップダウン・アプローチは、強力なリーダーシップと、その戦略の立案と実行に長けた外部リソース(アドバイザリー・ファーム)の活用、そして盤石な財務基盤の組み合せによってのみ達成される。

4) 成功の鍵は、ガバナンスとデジタル:
各社とも、新たなガバナンスがその成功の鍵と述べている。異なる地政の事業を委ねる、卓越したマネージメントチームの存在は、テクノロジーと並んで、その数値的な評価が困難な資産と言える。また両者は、人に依存し、往々にして経年と共に劣化する。「見えない大陸」で、初めての事業を統治することが果たして可能か?ビジネスとITが表裏一体である装置産業において、両者を切り離したガバナンスは成立しない。ここに、グローバルメジャー各社のリスクと課題が見出される。

また、今日、テクノロジーはデジタルと同義であろう。日経の発表文にある、以下のコメントは、メディアビジネスに限らず、広く金融情報産業全般に当てはまる動向である。「メディア」を「金融サービス」と読み替えれば、そのまま、グローバル金融サービスの戦略となる。デジタルは、両者の差異を限りなく薄めた。

  • 世界のどこにでも即座に情報を届けることのできるデジタルの長所活用した事業展開が欠かせない。既に、デジタルメディアと紙媒体との関係は逆転している。
  • 合従連衡の進展は、国や地域を越え、グローバルな補完関係を持つメディアが戦略的に手を結ぶ意味を拡大した。欧米とアジアという異なる地域で強みを持つ主要メディア同士による本格的な再編は、新機軸を切り開く。

Insight details

Content Type
Blogs
Location
Asia-Pacific