レガシー・モダナイゼーション(その3):保険会社にとって現代化の意味するところ

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1 October 2015
Eiichiro Yanagawa

本稿では日本の金融業界における、レガシー・モダナイゼーションの現状と今後の方向性を考察する。

第1回では2015年春に実施した、レガシー・モダナイゼーション・サーベイ2015の結果から日本のレガシー現代化の現状を明らかにした。第2回では、幾度となく現代化の荒波を経験し、進化し続ける自動車産業の歴史に知見を求めた。第3回の本稿では、目線を保険業界に特化し、保険会社にとって現代化の意味するところを述べる。

何故、現代化に取り組むのか?

セレントは多くの保険会社のレガシー現代化コンサルティングプロジェクトに関わってきたが、そのキックオフの際、まずCEO、CIOに問うのは以下のような事項である。

CEOへの質問:

  • 新商品の市場投入までにどのくらいの期間を要するか?
  • 1契約あたりの平均コストは?
  • コールセンターのスタッフが顧客の質問に答えるためにアクセスしなければならないシステムの数は?
  • 自動車保険の申請書に触れる必要のある社内スタッフは何人か?
  • 提携先の代理店は当社との全ての取引内容をオンラインで閲覧できるか?
  • IT部門を外部化した場合の想定コストとリスクは?
  • 自社のレガシーと現代化の対象は?

CIOへの質問:

  • 商品の変更に伴い、コードのカスタマイズが必要になるか?
  • 既存アプリケーションと新規アプリケーションはどの程度簡単に統合できるか?
  • 保守管理と新規プロジェクトのどちらにより多く投資しているか?
  • 自社のITは新規事業の買収に確実に対応できるか?
  • ソルベンシーⅡに準拠するために必要なITコストはどのくらいか?
  • 期限切れが迫っている保守管理契約はあるか?
  • 契約管理システム毎の、契約種別と契約数、及びリスク感応度は?

ITの課題(データモデルの硬直性、アプリケーションの柔軟性欠如、ITの重複とそれに起因した労力)を経営者の視点から解きほぐそうとすると、こうした素朴で現実的な問いかけとなる。これらの質問に即答できるならば、その保険会社には本稿の課題は存在しないと言える。これらの課題は決して、周辺システムの改善や、基幹システムへの対症療法では解決できないものであろう。

基幹システムを自ら設計し、開発し、運用し、保守してきた保険会社にとって、置換戦略の立案は未知な大陸への移住計画に等しい。その際に必要となるのは、全社を鳥瞰した現状のシステムマップ(As-Is State)の正しい理解と、そのあるべき姿(To-Be State)のデザインである。 加えて、現在市場に存在するソリューションから自社に最適なものを選定しなくてはならない。鍵となるのは要件定義(BRD)、つまり次期システムに必要十分な、業務機能やシステム要件の定義である。往々にして現状の把握は容易ではなく、あるべき姿のデザインはレガシーの再生産となりがちである。つまり、レガシーなシステムとモダンなシステムの峻別が必要である。

図 1:レガシーなシステムとモダンなシステム

legacymodernization_3-1

(出典:セレント)

新テクノロジー、外部的な視点の必要性

基幹システムの現代化には将来に向けた視点が必要である。その視点は、テクノロジーがドライブする、ビジネスモデルの変革を牽引するものに向けられていなければならない。

ビジネスモデルの変革が現実化しつつある例として、例えば、損害保険におけるテレマティクスを活用した個別料率算定が挙げられる。テレマティクステクノロジーは、寡黙な証人として、取り付けられた自動車の位置情報を指し示すだけではなく、今では運転者の行動ベースの運転状況、コンテキストベースの安全状況を見張る外部情報を生み出している。自動車保険の料率算定や引受査定におけるディスラプティブなビジネスモデルにすでにその輪郭が垣間見られる。
生命保険におけるInternet of Things(IoT)を活用した引受事後査定もその一例である。IoT時代のセンサーは、外部のバイオモニター(フィットネスバンドやウェアラブルコンピューター)を通じて、体温や脈拍、血液、酸素摂取量、運動量などのハザード(リスクの原因となる指標)を感じとり様々な疾患や病気、健康上のリスクの高まりを伝えてくれる。

つまり、基幹システムの現代化は、内部的なIT資産の置換に止まらない。将来を見据えた場合、内部的な視点に加えて、外部的な視点での現代化が不可欠である。保険会社が直面する挑戦は、現在の社内システムの改善と同時に、将来的な新しい能力を構築するために、外部機会を利用出来るアーキテクチャを準備する必要がある。

保険会社は現代化プロジェクトに取り組む際、これまでの内部的な視点、つまり基幹システムを俯瞰するだけでなく、外部的な視点、つまり顧客やステークホルダーのデジタル行動とそれが生み出す膨大なロー・データ、多種多様なデータソースとそのアクリゲーター、クラウドやビックデータ技術によるその分析、AIやIoT、ロボティクスによるその活用など、を必要とされている。外部的な視点を失った瞬間に、全ての基幹システムはレガシーとなろう。

図 2:外部的な視点の重要性

legacymodernization_3-2

(出典:セレント)

保険会社にとって、現代化とは何か?それは何故か?

セレントは、以下の3点で答える。

  1. 現代化とは、保険会社の基幹システムにおける、業務機能、インテグレーション、サポート、新商品開発、拡張性、そしてソーシングモデルを今日的な形態へ移行し、新たな事業機会を創出することである。
  2. 現代化へのビジネスドライバーは、成長戦略、ビジネスユニットの再編と再構築、需要の変化(デジタル化)に対応した新プロセス(STPと高運用性)の実現にある。
  3. 現代化が、レガシーの再生であってはならない。外部的な視点での現代化が不可欠である。その視点は、テクノロジーがドライブする、ビジネスモデルの変革を牽引するものに向けられていなければならない。

セレントレポート:

日本の保険業界におけるレガシー・モダナイゼーション パート1:調査結果分析と現状把握

日本の保険業界におけるレガシー・モダナイゼーション パート2:保険業界への提言

Insight details

Content Type
Blogs
Location
Asia-Pacific